解説シリーズ | 02

監査報告の誤りは、どう運ばれたか
——「第三者の目」と、確かめられなかった記述

「このプールでは国際大会が開けない」——検討の出発点に置かれた監査報告書には、競技規則にない条件が、開催の要件として書かれていました。この解説では、その記述がどの文書からどの文書へ運ばれたのかをたどり、規則の原文と並べて確かめます。結論を信じる必要はありません。末尾のリンクから、原文をご自身で確認できます。

STEP 1

ひとことで

令和3年度の包括外部監査報告書は、国際大会の開催に「オメガ製の計時機器」が必要で、観客席の構造も要件を満たさない、と書きました。しかし競技規則の原文に、そのような定めはありません。この記述は指定管理者からの聞き取りをもとに書かれ、水泳団体への確認はされないまま、事業者への説明資料や計画の「検討の背景」に引用され続けています。市長はこの監査を「第三者の目」と位置づけています。

STEP 2

何が起きたか

  1. 2021年12月
    市の内部で「通年床仕様への転換」の検討が始まる報道によれば、この時期の内部文書には、プロバスケットボールリーグの規格変更(大型ビジョン・貴賓室の増設)への対応が調整事項として挙げられていた。監査報告書の提出より前のことである
  2. 2022年2月
    包括外部監査報告書が提出される「FINA主催の」国際大会について、計時機器と観客席を理由に開催できないと記述。情報源は「指定管理者からの聞き取り」とされ、水泳団体への確認はなかった
  3. 2023年
    サウンディング調査(2回)監査報告書の抜粋が参考資料として民間事業者に配られる。「FINA主催の」という限定は、以後の資料では落ちた形で引用されていく
  4. 2024年6月
    素案公表。「検討の背景」の冒頭に監査報告書水泳3団体が会見で見直しを求め、月末にはパラ・知的・デフの競技団体が嘆願書を提出した(解説01参照)
  5. 2024年8月
    市長が監査を「第三者の目」と位置づける新聞インタビューで「税金を使う話なので、第三者の目、つまり包括外部監査のご意見。それと、諸事情を踏まえての総合的な判断になるべき」と発言
  6. 2024年〜
    規則の原文照合が行われる水泳関係者への取材で得た指摘をきっかけに、本プロジェクトが世界水泳連盟(World Aquatics)と世界パラ水泳連盟(WPS)の規則原文を確認した。結果は下記STEP 3
  7. 現在
    監査報告書の記述は、訂正されないまま原案・事業計画も「検討の背景」に監査を挙げている。誤りを公式に確かめ、訂正する手続きは、どの文書にも組み込まれていない
STEP 3

なぜそうなるのか

まず、記述と規則の原文を並べます。

監査報告書の記述(2022年)

国際大会の開催には、計時機器にオメガ製が必要だが、使用していない。

観客席の構造が、国際大会の要件を満たしていない。

※「FINA主催の」国際大会についての記述。情報源は指定管理者からの聞き取り。

競技規則の原文

World Aquatics(世界水泳連盟)の規則が定めるのは、計時機器が満たすべき精度や安全性といった性能で、メーカーの指定はない。特定の会社の指名は競争法に触れるためできない。オリンピック・パラリンピックでオメガ社の機器が使われるのは、その大会のスポンサー契約による。

観客席の構造は、水泳競技の公認要件に含まれない

つまり、大会ごとの契約で決まることが、施設が恒久的に満たすべき要件として書かれていた——取り違えとみられる。

誤りが生まれること自体は、珍しくありません。問題は、その先です。監査の記述は、聞き取りの相手(指定管理者)にも、競技の主管団体にも確かめ直されないまま、参考資料として事業者に配られ、素案・原案・事業計画の「検討の背景」の冒頭に引用され続けました。途中で「FINA主催の」という限定も落ち、「国際大会が開けない」という、より広い意味に読める形で運ばれていきました。

そして市長は、この監査を「第三者の目」と呼びました。監査が第三者であることは、制度の上では正しい。しかし第三者の目が見たものは、当事者(競技団体)に確かめられていない聞き取りでした。しかも報道によれば、「通年床仕様への転換」の検討は、監査報告書が提出される前の2021年12月には市の内部で始まっていました。第三者の意見が判断の根拠なのか、先に方向があってあとから根拠が並んだのか——それを外から見分ける手がかりが、文書の順序です。

公式文書の連鎖 内部文書 2021.12 監査報告書 2022.2 「FINA主催の」 サウンディング 2023×2回 抜粋を配布 素案 2024.6 検討の背景の冒頭 原案・事業計画 2024.12–2025 監査を引用 現在 未訂正のまま 「FINA主催の」という限定は、このあたりで落ちる この線を越える結び目(確認・訂正の手続き)が、制度上ない 外からの検証・指摘(破線) 競技団体の会見・嘆願 2024.6 見直し要求 報道の検証 内部文書・判断材料の不足 を記名記事で指摘 2024 規則原文との照合 メーカー指定なし・観客席は 公認要件外 2024– 聞き取りの経路:監査 ← 指定管理者(競技団体への確認なし) 指定管理者 聞き取りの情報源
図3 監査の記述が運ばれた経路(上段・実線)と、外からの検証(下段・破線)。破線は横一線の膜を越えられない——検証を公式文書の連鎖に取り込む結び目が、制度上どこにもない。

この図の言いたいことは一つです。誤りを直す仕組みが、連鎖のどこにも組み込まれていない。監査報告書は提出されたら完結し、それを引用する各文書は「監査がそう言っている」と書けば足ります。会見も、報道も、原文照合も、下段で行われてきました。しかし下段から上段へ、確認と訂正を運ぶ結び目がない。解説01で見た「声の結び目のなさ」と、同じ形をしています。

STEP 4

自分で確かめるには

この解説を信じる必要はありません。次の一次資料で、ご自身で確認できます。

解説シリーズは、研究プロジェクト「まちをつくるアスリート」の記録を、市民の言葉に翻訳するものです。一次資料に基づいて作成し、誤りが見つかった場合は記録本編と同じ方式(更新履歴への根拠つき記載)で訂正します。
2026年8月26日公開 文責・佐々木延江

← 解説01「なぜ議会で決まらないのか」  解説シリーズ一覧  記録本編(CASE 01)→